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前置き
 クイズヘキサゴンという番組をご存知でしょうか。今は水曜日の夜8時からやっていますが、もともとは深夜番組で、そのころから僕はこの番組のファンでした。この番組の面白さは、クイズ番組に心理戦を持ち込んだところ、そして問題に正解できなくても勝ち残れるところでしょう。
 今回は番組の回し者っぽいですが、まほらばキャラでヘキサゴンをやってみようと思いました。ですが、1時間番組をまるまる書ききれもしないので端折りが多いです。ご了承を。まあこの番組の雰囲気だけでも伝わればいいと思います。
クイズ ヘキサゴン

「というわけで第16回チキチキ王様争奪グレイトバトル開催!」
 桃乃恵の声が鳴滝荘に高らかと響き渡った。
 場所は鳴滝荘の台所。皆が食事を終えた頃だった。
「今回の種目はクイズヘキサゴン、最後まで立っていた奴が勝者だ!」
「また突然に……」
 白鳥隆士は呆れ顔だったが、恵に取り合う様子はない。
「何か質問は?」
「そもそもヘキサゴンって何なんですか?」
「あら、知らない? 仕方ないわね、説明したげるわよ」



【クイズヘキサゴンのルール】

 参加者6人が順番にクイズを出題し、他の参加者に×をつけていくクイズです。×が3つになった時点で失格となります。

 1人が出題者となり、残りの5人は出題者の選んだ問題に解答します。出題者は他の5人の回答者が、問題に対して正解か不正解かを予想します。そして不正解だと思った人に対し「ヘキサゴン」と言います。もし指名された回答者が不正解だった場合、その回答者には×が1つつきます。しかし、回答者が正解だった場合は、逆に指名した出題者に×がつきます。

 もし、回答者全員が正解だと思った場合は「セーブ」と宣言します。本当に全員正解だった場合は、出題者は回答者の誰か一人に×をつけることができます。しかし、誰か一人でも間違っていた場合は出題者に×がつきます。

 また、1つの問題で3人に×をつけた場合、ボーナス3として自分についている×を1つ減らすことができます。×がないときには、番組では商品がもらえます。

「今回の席順」
隆士/ ̄\沙夜子
朝美\_/珠実
由起夫



「とまあ、こんな感じよ」
「はあ、なるほど」
「桃さんは参加しないんですかぁ〜?」
 間延びした声で珠実が尋ねた。確かに、これでは6人しか参加できない。
「7人でやってもいいんだけど、問題作ったの私だし、今回は司会に徹するわよ」
 だから王様になってもあんまりきつい命令しないでねと、恵は付け加えた。
 その間にも隆士は考える。
 このクイズはっきり言って、いかに自分が正解か不正解かを悟らせないかにかかっていると言えるだろう。無難に正解を繰り返していっても、セーブと言うルールがある。正解しているのに×がつく可能性があるのだ。
「じゃあ早速始めましょう。ちなみに事前に私が汗水たらしてその問題を街の人に出して正解率を出しておいたから参考にしてね。10人に聞いたから数字は全部きりがいいわよ」

通勤帰りの40代くらいのサラリーマン
正解率 0% 20% 60% 100%
商店街で買い物中の主婦
正解率 0% 20% 80% 100%
鷲田大学学生
正解率 20% 30% 50% 80%
青短高生徒
正解率 0% 40% 60% 100%
朝美ちゃんの中学校生徒
正解率 0% 40% 60% 90%

注:僕がこんなもんだろうと思う正解率です。実際には聞いてませんのであしからず。


「じゃあ、始めの出題者は白鳥くんよ」
 隆士は20問の中からどれを選ぶか考える。今回のメンバーは年の差が結構ある。下は朝美ちゃん、上はバラさん。年代だけの正解率を見ればある程度問題は予想できる。そしてその年代から外れた人を指名すれば×をつけやすいだろう。まず目標を、実はいろいろ知っていそうなバラさんに絞る。
「じゃあ、青短高生徒60%の問題で」
「はいはい、60%ね」
 恵に渡された問題を見る。そして顔をしかめた。女子高生の流行の問題を予想していたのだが……。
「はい、読んで読んで」
「オーストラリアの首都はどこでしょう?」
「じゃあ皆は答えをスケッチブックに書いてね」
 それぞれが持つスケッチブックに答えを書き込んでゆく。その様子を隆士はじっと見つめる。沙夜子の書き出しが遅いが、分かっているのか分からないのかといった表情がまったく出ていない。意外と知っているのかもしれない。他の面々は思いのほか早く書きあがったようだ。
 しかし、この問題の嫌なところは勘違いで間違った解答を書いている可能性があるところだ。本人は自身ありげでも、実は間違っている可能性もある。目標にした由起夫だが、おそらく知っているだろう。問題は沙夜子が知っているかどうか……。まさに青短高の生徒である梢や珠実、そして中学生の朝美も授業で習ってるだろう。
「じゃあ質問して。そうそう、質問に対して嘘を答えてもいいわよ」
「じゃあ沙夜子さん。ここで行われたことで何か知っていることはありますか?」
 オリンピックと言えばしめたものだが……。
 しかし沙夜子は、
「さぁ、何かあったかしら?」
 流石にこの程度の引っ掛けにはかかってこない。あるいは何も知らないから答えられないのか。
「じゃあに灰原さんに同じ質問を」
「ン、あれだろ、オリンピック」
「そうですか、分かりました」
 まさか、由起夫が引っ掛かるとは思っていなかった。オリンピックがあったのはシドニー。しかし首都はキャンベラである。
「他の人に質問しないの?」
「いえ、大丈夫です」
「そう、じゃあバッテンチョイス」
「灰原さんにヘキサゴンで」
 ビシッと指差す。間違いない。勘違いに気が付いていないのだ。
「じゃあバラさんの答え、オープン」
 恵の声と共に、由起夫がスケッチブックを開いた。
『キャンベラ』
「正解!」
「なっ!」
 思わずうめく。引っ掛かったと思わせておいて実は演技だったのだ。
「ふっ、まだまだ甘いナ」
 ジョニーが得意げに胸を張った。
「じゃあ他の人の答えを見てみましょうか」

朝美:キャンベラ
梢:シドニー
珠実:キャンベラ
沙夜子:オーストリア

 やはり沙夜子は知らなかった。というかシドニーとすら書いていない。オーストリアも国だ。
「キャンベラでしたね……ど忘れしてました」
「今日から首都はシドニーになるから大丈夫です〜」
 間違えた梢に、珠実は無茶なことを言っていた。

『現在の状況』
×隆士/ ̄\沙夜子
朝美\_/珠実
由起夫

「次は梢ちゃんの番よ」
「じゃあ、主婦の方の正解率0%の問題で」
「はい、問題」
「えっと、『白樺』を創刊し、『城の崎にて』『暗夜行路』などを書いた作家は誰でしょう?」
 なんだこの難易度の違いは、隆士は自分が引いた問題とのギャップに自分の運のなさを感じる。暗夜行路というタイトル自体は聞いたことはあるが、流石に内容までは授業で扱わないだろう。大体作家の名前も忘れてしまった。この中で答えられそうなのは由起夫くらいのものだろう。あと珠実が知っているくらいか?
 とりあえず隆士は絶対違うとわかっているが「だざいおさむ」と書いておいた。漢字も忘れたが。
「質問どうぞ」
「じゃあ、読んだことはありますか?」
「ないです〜」
 即答したのは珠実だった。身振り手振りで「カモ〜ン」とアピールしている。……どうやらまたしても梢を勝たせる作戦らしい。
「僕もないかな」
 ジョニーだけは「俺は持ってるゼ」という以外には全員読んでいないという回答だった。
「あの、どうしても誰か指名しないとダメなんですか?」
 振り返る梢は司会である尋ねた。
「まあそういうルールだからねぇ。まあ全員正解だと思ったらセーブって言えばいいけど」
 誰かを指名するということ自体に躊躇しているのだろうか……。それを珠実も悟ったのだろう、アピールに力が入る。セーブされては、少なくとも珠実はわざと間違えているだろうから梢に×がつく。しかし梢も全員が正解しているとも考えていないだろう。
「梢ちゃん、バッテンチョイス」
「じゃあ、珠実ちゃんにヘキサゴンします」
 申し訳なさそうに言う。
「そう、じゃあ珠ちゃんの答え、オープン」
 珠実の答えは、
『徳川家康』
「不正解」
 絶対わざとだ……。隆士はあてずっぽにしてはひどすぎる答えにそう思った。家康はいつから作家になったのか……。
「いや〜、まったく分からなかったです〜」
 白々しくそういう。1つ×をもらいながらも満足げだ。
「梢ちゃん、まだ指名できるけどどうする?」
「じゃあ……」
 ひとり指名して自信がついたのだろう、今度は沙夜子を指名した。
「じゃあ沙夜ちゃんの答え、オープン」
『小泉純一郎』
「不正解」
 ……沙夜子さんは本当に真面目にやっているんだろうか、そんな疑問が隆士に浮かぶ。
「あと1人×をつければボーナス3で、今夜の宴会の割り勘免除でーす」
 今日も宴会……。隆士の心に何か重いものがのしかかった。
 あと1人の指名、残るは朝美、由起夫、隆士。指名するか、それとも……。梢は3人の表情を順番にうかがった。由起夫に表情は出ていない。朝美は笑顔を作っている、若干硬い気もするが。隆士は無表情に努めた。それをみたのか、梢が結論を出した。
「これで止めておきます」
「そう、じゃあ他の人の答えを見てみましょうか」

隆士:だざいおさむ
朝美:かわばたやすなり
由起夫:志賀直哉

「ボーナス3、できたわねぇ。正解はバラさんだけね」
 答えを見て恵が呟く。2問だけだが、由起夫はまだ間違えていない。わざと間違えた珠実だが、答えは知っていただろう。やはり要注意はこの2人か……。

 出題者が沙夜子になる。鷲田大学学生30%の問題、ここで沙夜子は由起夫を指名。しかし失敗、×が2つになった。
 出題者は珠実になる。選んだ問題は主婦の正解率100%。問題は『しょうゆの原料となる植物は何?』といういたって単純な問題だった。ここで珠実はセーブし、これを成功させた。まだ×のない由起夫に×をつける。

『現在の状況』
×隆士/ ̄\沙夜子××
朝美\_/珠実×
由起夫×

「じゃあ次は、バラさん」
「大学生の80%で頼むゼ」
 問題を受け取る。そして読み上げた。
「TERU、HISASHI、JIRO、TAKUROの4人組の人気バンドの名前は何というでしょう?」
 黒崎親子には厳しい問題だろう。芸能関係に詳しいとはとても思えない。しかし隆士も人のことを心配している余裕はなかった。知らない。バンド名を聞けば分かるかもしれないが、メンバーが誰かまで覚えていない。
 4人組の人気バンド……。思いついたものを書いておいたが、あまり自信がない。
「じゃあ質問どうぞ」
「そういっても、オレが知らないから質問が思い浮かばないナ。まあとりあえずこいつらの曲を聞いたことがあるかどうか聞いてみるカ」
 梢と沙夜子ははっきりないと答えた。朝美は、
「みっちゃんとさっちゃんといっしょに買い物に行ったときにお店で流れてて、それで教えてもらったことがあるから、多分この人たちだと思うんだけどな」
 と答えた。珠実はアルバムを持っていると答えた。
「僕は聞いたことありますよ。まあ友達でカラオケとか行きましたし」
 嘘をついておく。カラオケなんて行ったことはない、学生時代はずっと絵を描いていたんだから。
 由起夫は少し考え、結論を出した。
「まあ、学生なら知ってる問題なんだからナ。というわけで、沙夜子にヘキサゴンだ」
 ジョニーが指差す。
「じゃあ沙夜ちゃんの答え、オープン」
『渋がき隊』
「不正解! 沙夜ちゃん、失格」
 それバンドじゃないでしょう、と思わず心の中でツッコミを入れる隆士。しかしこれで沙夜子が失格になった。
「あと、梢も知らないだろ。バンドとか聞きそうにないしな」
 そう言った瞬間、隣に座る珠実からどぎつい視線が飛ぶ。しかしジョニーはそれを格好よく無視した。
「じゃあ梢にヘキサゴン」
『米米クラブ』
「不正解!」
 これで初めて梢に×がつく。梢はしょげっとしながら、
「バンドとかわからないですから……」
 と呟いた。珠実が親の敵を見るようにジョニーを睨む。
「ボーナス3目前だわね。勝負に行くの?」
「そうだナ……。じゃあ、朝美にヘキサゴン」
「おー、勝負に出たわねー」
 あのダンボール箱の部屋では曲も何もないだろう。指名された朝美は自信なさげにしていた。
「じゃあ朝美ちゃんの答え、オープン!」
『グレイ』
「ま、カタカナだけど、正解!」
「なんてこった……」
 頭を抱えるジョニー。×を1つ減らしたかったが逆に1つ増えてしまった。これで今度は由起夫が失格にリーチ。これは隆士にとっても意外だった。
「じゃあ他の2人の答えも見てみましょうか」

隆士:ルナシー
珠実:GLAY

「白鳥くん、ルナシーって5人よ」
「いやぁ、知らないですから適当に書いたんですけど」
「白鳥に行けばよかったのカ……」

『現在の状況』
×梢
×隆士/ ̄\沙夜子(失格)
朝美\_/珠実×
由起夫××

 朝美の順番になり、中学生40%の問題を選択。『日本最南端の都道府県はどこ?』という問題。
 高校生の2人は知っているだろうと読み、由起夫と隆士のどちらかに絞るが……。これまでほとんど正解してる由起夫にはなかなか行きにくい。かといって隆士も専門学校生。高校では習っただろうし、忘れているとは思えない。
 問題の難易度からして、セーブを警戒し、あえて間違えた答えを書くセーブ崩しもしてこないだろう。
「セーブしようかな」
「セーブするのね?」
 恵から確認を取られると戸惑ってしまう。セーブのような気がするが、誰か間違っているような気もする。
「じゃあやめようかな……」
「……どっちなの?」
「うーん……」
 迷えば迷うほどに思考の袋小路が待っているだけだ。しかし×2つの由起夫はセーブ崩しする余裕がないだろう。崩すとすれば逆に、正解していると思われる珠実か梢。しかしこれまで梢はすべての質問に正直に答え、そして正直な回答をしている。だから不正解がいるとすれば隆士か珠実の2択……。
「やっぱり、セーブ」
「いいのね?」
「うん」
「じゃあ順番に答えを見ていくわよ、まず梢ちゃん」
 指名され、梢がスケッチブックを開く。
『東京都』
「はい、正解。次は白鳥くん」
『東京都』
「正解。あと2人よ、朝美ちゃん」
 こくりと頷く。
「じゃあ珠ちゃんを見てみようか」
 珠実がセーブ崩しにきていないかが一番の気がかりだ。
「答え、オープン」
『東京都』
「おー、正解。あとはバラさんが正解ならセーブ成功よ。誰か1人に×をつけられるわよ」
 全員の視線がジョニーに注がれる。ジョニーに表情があるとするなら、それは自信だろうか……。
「じゃあバラさん、答えオープン」
『沖縄』
「不正解、セーブ失敗ね」
「なんで東京が最南端なんだ?」
 知らなかったらしい。覚えていなければならないほど重要な事柄でもないし、知らなくても仕方ないだろう。むしろ授業中に地図帳をながめていなければ覚えられないことかもしれない。
「というわけで朝美ちゃん、×1つね」

『現在の状況』
×梢
×隆士/ ̄\沙夜子(失格)
×朝美\_/珠実×
由起夫××

 次に隆士が選んだ問題はサラリーマン20%。問題は『11月の祝日を2つとも挙げなさい』というもの。2つというのが正解率を下げた原因だろうか。隆士もすぐには浮かばなかった。今は8月、11月の祝日はちょうど忘れてしまっている頃だ。
 ここで隆士は朝美と梢に×をつけた。珠実と由起夫のどちらかに行けば、ボーナス3で自分の×を1つ減らすことができる。しかし、相手が悪い。無理をしてヘキサゴンをすれば自分の後がなくなる。
「ボーナス3は行かないの?」
「ええ、やめときます」
「じゃあ2人の答えを見てみましょうか」

珠実:文化の日、勤労感謝の日
由起夫:文化の日、勤労感謝の日

「2人とも正解、いかなくてよかったわねぇ」
 ほっと胸をなでおろす。やはりこの2人の正解率は高い。なかなか隙がないのだ。2人に×をつけられるとしたら、出題者のときの指名ミスくらいしかない。あとはセーブを成功させるか。ここからは本当の意味で駆け引きが要求されるだろう。

『現在の状況』
××梢
×隆士/ ̄\沙夜子(失格)
××朝美\_/珠実×
由起夫××

「さあリーチが3人に増えたわね。出題者は梢ちゃん」
 ×を減らせる問題、すなわち誰も知らない問題がいい。梢は青短高生徒0%を選んだ。
「ソウズの2、3、4、6、8、字牌の発のみでつくるマージャンの役を何と言うでしょう」
 ここで梢は、またしても「カモ〜ン」とアピールする珠実を指名し×をつけた。続いて朝美も指名、朝美を失格にした。あと1人でボーナス3。この場面で自分の×が1つ減るのはかなり嬉しい。残るは隆士と由起夫。
「あの、すみません、白鳥さんにヘキサゴンで」
 隆士も知らなかったため、何も書けなかった。これでボーナス3が成功、梢の×が1つ減った。
「どうする、いっそここでバラさんを亡き者にできるけど?」
「いや、亡き者ってなんだヨ」
 ジョニーが文句をいうが、恵はさして気にしていなかった。
「いえ、ここで止めておきます」
「そうね、ここで無理してもね」

由起夫:緑一色(リューイーソー)

「正解、亡き者にはできなかったわね。さあ、これは梢ちゃんがかなり有利だわね」

『現在の状況』
×梢
××隆士/ ̄\沙夜子(失格)
(失格)朝美\_/珠実××
由起夫××

 珠実は中学生の90%を選択した。
「『弘法も筆の誤り』と同じ意味のことわざ、『○○も木から落ちる』。さて、なんでしょう〜」
「あらー、なかなか微妙な問題引いちゃったわねぇ」
 誰でも知っている問題は、それゆえにセーブするかヘキサゴンで指名するかが問われる。逆に回答者も、正解を書くか、それともわざと間違えてセーブを崩すのかという選択が迫られる。
 由起夫の正解率は高い。しかしそれゆえに、肝心な場面で間違えてくる可能性もある。隆士もあれこれ考えてくるだろう。梢は知っているならそのまま正解を書くだろうけれど。
「では質問を〜。白鳥さん」
「どうぞ」
「どうしてセーブ崩しをしようと思いましたか?」
「は?」
 そんな質問がくるとは思っていなかったのだろう、隆士は一瞬呆気に取られていた。
「いや、まあたまにはボケた方がいいかなぁ、なんて」
「そうですかぁ。まあそんな度胸はないはずなのでよしとします〜」
 ひどい言われ様だ……、隆士の心の隙間に北風が吹いた。
「じゃあバラさん、この落ちたものは動物ですか、植物ですか、それ以外ですか〜?」
「ン、植物だろ、木から落ちるくらいだからナ」
「は〜、なるほど」
 わざととぼけているだろう。しかし、だから正解とは限らない。一番初め、同じようにして隆士を引っ掛けているのだ。今回はその逆も考えられる、とぼけた上で不正解という。
「さぁ珠ちゃん、セーブする、それとも誰かを指名する?」
「じゃあ、バラさんにヘキサゴン〜」
「ふっ……」
 指名されて、余裕の態度を取るジョニー。しかし珠実はヘキサゴンを取り消さない。
「じゃあバラさんの答え、オープン」
『花咲かじいさん』
「不正解! バラさん失格」
「ちっ、セーブで来ると思ったんだがナ」
「まだまだ甘いです〜」
 これで由起夫も失格。残るは3人になった。
「まだ指名できるけど、どうする」
「やめておきます〜」
「じゃあ2人の答えを見てみましょう」

隆士:猿
梢:猿

「2人とも正解。梢ちゃんの有利は変わらないわね」

『現在の状況』
×梢
××隆士/ ̄\沙夜子(失格)
(失格)朝美\_/珠実××
由起夫(失格)

「今度は白鳥くんの番よ」
「じゃあ、中学生の0%で」
「はい、問題読んで」
「よく似ているが違う物のたとえ、『下駄と○○○』、さて何でしょう?」
 これは難問だろう。自分でも分からない。しかしだからといって珠実が知らないかと言われるとそれも微妙だ。
 梢を見る。正直に首をひねっているところを見ると知らないのだろう。まあさっきから梢は駆け引きらしい駆け引きはしてないのだが。
 問題は珠実の方である。表情はいつも通り不敵に微笑みを浮かべているだけだ。知っていようが知っていまいが指名しない方が無難である。もしかしたらとどめをさせるチャンスかもしれないが、逆に失敗してしまえば終わりなのである。
「質問は?」
「いえ、大丈夫です」
 恵の言葉に、うなずく。
「無難に梢ちゃんにヘキサゴンする気ですか〜、ヘタレですねぇ〜」
 珠実の挑発の声が聞こえる。しかし隆士は無視する。セーブはありえないのだ。どちらかを指名するしかない。
「梢ちゃんにヘキサゴン!」
 挑発の声よりも強く言う。
「よし、じゃあ梢ちゃんの答え、オープン」
『ぞうり』
「不正解、梢ちゃんも×2つ目よ。で、珠ちゃんに指名する、白鳥くん?」
 知らないかもしれない、知っているかもしれない。しかしさっき挑発して自分に仕向けようとしたのも正解しているからだろう。
「ここでやめておきます」
「じゃあ珠ちゃんの答えもオープン」

珠実:焼き味噌

「おー、正解。珠ちゃんこんな問題よく知ってたわねぇ」
「それほどでも〜」
「さあこれで3人とも×2つ、次に落ちるのは誰か。それとも次の問題で決着がつくのか」

『現在の状況』
××梢
××隆士/ ̄\沙夜子(失格)
(失格)朝美\_/珠実××
由起夫(失格)

「次の出題者は梢ちゃんよ」
「えっと、じゃあ主婦の方の20%で」
「OK。その前に、この問題は写真問題。これから写真を配るからそれをよく見て答えを書いてちょうだい」
 そう言って手渡された写真を見て、隆士は思わず口の端をひくつかせた。これは……。
「じゃあ問題を読んで」
「はい、このアパートの名前は何荘でしょう?」
 一目瞭然で鳴滝荘だった。買い物帰りの主婦に対する知名度が低かろうと、その住人が知らないわけがない。
「白鳥さん〜」
 と、珠実が不敵な微笑みを浮かべていた。
「当然この問題の答えはご存知のこととは思いますが〜、梢ちゃんとの思い出がつまったこの場所の名前が分からなかったり、ましてやわざと間違えたりなんてなさりませんよね〜?」
「あ、はははは……」
 普通の常識問題ならセーブ崩しも考えた。間違えることは戦略上は何の問題もない。しかし出題者は梢、答えは鳴滝荘。梢は間違いなくセーブする。というより分からなかったり間違えたりしたときに梢はなんと思うだろう。もはやこれはゲームではなくなっていた。
 しかしセーブされると分かっていてみすみすセーブを成功させてしまうのも……。隆士は悩みながらも、とりあえず書き込んだ。
「じゃあ、まあ質問するほどでもないとは思うけど、質問タイム」
「えっと、お二人とも……ご存知ですよね?」
 少し自信なさげに聞く梢。
「そりゃ、まあ……」
 つられて自信なさげに答える隆士。
「もちろん知ってますよ。知らない方がどうかしていると思いますが〜」
 珠実はそう答えた。
「まあさすがに知らないってことはないでしょうけど、セーブ崩ししてくる可能性もあるわよ」
 梢の隣に立つ恵がアドバイスする。知らないはずはない、だたわざと間違えることは可能である。
「そんなことしないです〜。ねぇ、白鳥さん?」
「え、いや……」
 明確に答えるわけにはいかなかった。珠実は隆士に不正解をさせにくくして、梢にセーブと言わせたいのだ。そんな戦略を後押しする必要はない。なけなしの抵抗だった。
「じゃあ梢ちゃん、バッテンチョイス」
「はい、珠実ちゃんにヘキサゴンです」
 場に静寂が訪れた。
「……いいの?」
 硬直から逃れた恵が尋ねる。このセーブしろという雰囲気の中で、梢はヘキサゴン。しかも今まで散々協力してきた珠実に、である。
「こ、梢ちゃん、考え直してください〜」
 梢はセーブする。それを珠実は疑いもしなかっただろう。
「知ってるってことは、逆にわざと間違えてることもあるってことですよね?」
「まあ、勘が当たらない限り、わざと正解なんてできないけど……」
 聞かれた恵は、少ししどろもどろになりながら答えた。
「ですから、お二人ともわざと間違った答えを書かれてのかなって」
「二人ともわざと間違えたって言うのね?」
「これだけ知っているって言われると、セーブするのもちょっと不安で」
 これまで梢が選んだ問題はどれも正解率の低いものだった。誰かは知らない問題、だから珠実が知らないといっても信じられた。知らない問題を正解することはできない。しかし今回はここに住む者なら知っていて当然の問題。しかし知っているから正解とは限らない。回答者は不正解することを選べるのである。
「そういうわけだ珠キチ、答えを見せやがれ!」
「ううっ……」
 渋々、珠実は答えを書いたスケッチブックを開いた。
『鳴滝荘』
「正解、梢ちゃん失格!」
「梢ちゃ〜ん……」
 うっすら涙目になりながら珠実が呟いた。
「残念です。やっぱり難しいですね」
 これで梢も失格になった。残りは隆士と珠実だけである。
「じゃあちなみに白鳥くんの答えは?」
『鳴滝荘』
 正解を書かざるを得なかった。珠実に思考を縛られた。しかし梢は相変わらずのマイペース、珠実の誘導に乗せられなかった。というか誘導があったということに気付いていないだろう。
「まあ、そんなとこでしょうね。さあ、いよいよ最終決戦よ!」

『現在の状況』
(失格)梢
××隆士/ ̄\沙夜子(失格)
(失格)朝美\_/珠実××
由起夫(失格)

「白鳥さ〜ん、よくも梢ちゃんを〜」
「僕、何もしてないよ」
「問答無用です〜」
 泣いても笑ってもこの問題で決着がつく。珠実は隆士に分からなさそうな問題を選んだ方が勝ちやすいが、しかしそうはしなかった。
「正々堂々、心理戦で決着をつけてあげます〜。青短高生徒正解率100%〜」
 実際のところ、珠実は心理戦のほうが強いだろう。隆士が知っているか知らないか分からない問題を選ぶよりも、常識問題である方がまぎれは少なくてすむ。絶対に知っていて、それを間違えるかどうかだけを考えればいいのだから。
「じゃあ珠ちゃん、これが最終問題よ」
 恵から手渡された問題を、珠実は読み上げた。
「漢字で書くと排球、六人または九人ずつのチームがネットを挟んで、手や腕でボールを打ち合う球技のことを何と言うでしょう〜?」
「じゃあ白鳥くん、答えを書いて」
 視線を手元に落とした隆士に、珠実が不敵な笑みを浮かべた。
「どれだけ悩んでも、白鳥さんにわざと間違える根性はないと思いますが〜」
 早速揺さぶりをかける。しかし隆士は聞いているのかいないのか、顔をあげることはなかった。ただ真剣な眼差しでスケッチブックを見つめている。
 一方、すでに失格になった4人はその様子をすこし離れて見守っていた。もちろん、4人は隆士の答えを見ていない。
「答え、バレーボールだよね?」
「そうだね」
 ひそひそと話す。
「答えは分かるだろうからナ、あとはあいつが正解を書くか間違えてくるかだが……」
「正解、していると思うわ……」
 沙夜子がぽそりと言う。
「私もセーブするかなぁ……」
「俺も、不正解する勇気はあいつにはないと読むな」
「白鳥さん、珠実ちゃん……がんばって」
 それは確率50%を越えた読みあい。制したものが勝者となる。
「じゃあ白鳥くんが答えを書き終わったので、質問タイム」
 隆士は少しだけ硬い表情を浮かべていた。ポーカーフェースに努めようとしているが、完全ではない。珠実はそんな隆士を見ても、不敵な笑みを浮かべたままだった。
「白鳥さん、このスポーツをやったことはありますか〜?」
 先ほどとは違い、普通の質問だ。
「中学とか高校とかで体育の時間にやったことがあるよ」
「まあ、やらない学校もないでしょうからね〜」
 そして一瞬の間。珠実と隆士の視線が交錯した。心理を読もうとする者と、読ませまいとする者の意志がぶつかり合う。
「はい、決まりました〜」
 ギャラリーからも声が漏れる。一体どんな決断を下したのか?
「じゃあこれがラストよ。セーブ、それともヘキサゴン?」
「白鳥さんにヘキサゴンです〜」
「おお、白鳥くんは間違えたと思うわけね」
 ギャラリーの予想がセーブだっただけに、恵も意外そうに聞き返した。
「白鳥さんはやるときはやるんですよ〜。だから今回は頑張って間違えているはずです〜。まあそんな決断も報われないことになるですけどねぇ」
 隆士は何も答えない。ただ、黙して結果を待つだけだ。
「変更はしないわね?」
「はい〜、ヘキサゴンです〜」
「じゃあ白鳥くん、そのスケッチブックを開けやがれ!」
 隆士はスケッチブックを正面に立て、そして一気に開いた。
『セパタクロー』
「不正解、ということで白鳥くん失格。よって、優勝は珠キチだぁぁぁ!」


 手に竹箒、それが今の白鳥隆士の姿だった。
 ──なんでこんなことに。
 溜め息まじりにそう思う。梢がやっているように、竹箒でちりをかき集めていく。
 思えば、あのとき正解を書いていればこんなことにはならなかったのだ。珠実の挑発を受け、不正解を書こうと思った。しかし、その裏をついて正解を書いたほうがいいのかもしれないとも思った。いや、しかし……などと考えていると、どうしていいのか分からなくなった。だから、挑発にのることにした。後で他の人に聞いたが、みんな自分ならセーブしたといっていたので、自分の決断は大方正しかったのだろう。それが珠実には通用しなかっただけで。
 その珠実が王様権を使って下した命令はこうだった。
『明日一日、梢ちゃんに代わって一日管理人を命じます〜。キリキリ働いてください〜』
 今日は朝から、梢と珠実と恵、そして黒崎親子が一緒に出かけている。女性だけで行きたい場所もあるのだろう、勝手にそう理解した。
「白鳥さん、申し訳ありません……」
 しょげっとしながら出かけていく梢達を見守り、隆士は鳴滝荘の掃除を始めた。どうせなら普段できないところも掃除してあげようと張り切ったはいいが、鳴滝荘は相当広く、苦戦を強いられた。
 昼下がり、ようやく玄関掃除にたどり着く頃には、隆士の疲労はピークに達していた。
 ──まあ、でも。
 隆士は思う。
 きっと梢は楽しんでくるだろう。
 これだけ広い鳴滝荘をいつもちゃんと管理している梢に、すこしだけお休みをあげられたのだ。それを思えば、これくらいたいしたことではない。
「もうちょっと、頑張ろう」
 そして今日は、いつも言われている言葉を先に言うのだ。

「おかえり、梢ちゃん」

(終わり)




 あとがき

 クイズヘキサゴン、面白いクイズ番組なのでぜひ見てほしいなぁという気持ちと、まほらばキャラならどうなるかなぁという気持ちで書きました。もうちょっと問題部分を省略しても良かったような気もしますが。最近バイトが続いてヘキサゴンが見れないんですよね。あと、野球でよくつぶれますが……。トリビアの泉の前の番組なので、ぜひ見てみてください。


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