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流星ジョニー密室殺人事件 その3


 状況はこう言っている。
 犯人は梢ではない、しかし梢の協力がなければ犯行はなしえない。
 もちろん、10時以前に由起夫自身が梢と協力し4号室にぼろぼろのジョニーを先に入れておくという方法も考えられるが、そんなことをする動機が見つからない。どう考えても、動機が浮かんでこないのだ。
 つまりは、あらかじめこうしようと思って事件を仕組んだわけではないということだ。事件が起こり、それを隠すために仕方なくやったこと。だとすれば、考えられる事態は多くない。
 隆士は待っていた。
 どう切り出そうか考えているところに、扉をノックする音が響いた。
「お兄ちゃん、入ってもいい?」
「どうぞ」
 ゆっくりと扉が開く。声の主、黒崎朝美はゆっくりと部屋の中に入ってきた。
「えっと、お話って何?」
 おとおどと聞いてくる朝美を見て、隆士は何となく見当はついているのだろうと思った。
「……まあ、ちょっとね。とりあえず座ってよ」
 いきなりはっきりと言いにくく、隆士は朝美に座るように促した。朝美は大人しく机を挟んで隆士の前に座った。
「今回のことで、朝美ちゃんに確認したいことがあって」
「うん……」
 やはり落ち込んでしまう。いや、恐れていると言う方が正しいのだろうか。
「あの密室を作ったのは、朝美ちゃんだね」
「……でも、梢お姉ちゃんは嘘をついてないよ」
 確かにそうだろう。だからこそ、密室などとという幻想に迷い込んでいたのだから。
 隆士は言う。その迷宮から抜け出す、出口を。
「確かに梢ちゃんは嘘をついているつもりはないんだ」
「…………」
 黙ってしまう朝美。
 事実を告げることは彼女を傷つけるだろう。しかし、言わなければならない。事件をここまで大きくしてしまったのはほかならぬ隆士自身だ。事件を解決しなければならない、それはあらゆる意味で。
「地震があったとき、梢ちゃんの人格が魚子ちゃんに変わってしまったなら、梢ちゃんの地震が起きたときの記憶は記憶の補填が行われていて、事実に反することを記憶している可能性があるよね」
 そう、地震が起こったとき恐らく梢の人格は変わってしまった。ジョニーを洗濯機に入れようとしたまま魚子の人格になったなら、魚子は手に持っていたジョニーを見てどうするだろう。予想はつく。
「台所に行った朝美ちゃんは、魚子ちゃんがジョニーをはめて遊んでいるのを見つけたんでしょ」
 沈黙が降りる。
 事実を認めるには勇気がいる。それは分かる。だから時間を与える、決断の時間を。
 朝美はゆっくりと頷いた。
「やっぱり、お兄ちゃんはごまかせないね」
 弱々しい笑顔。
「私が台所に行ったら、魚子ちゃんが遊んでたの。台所って危ないから離れてもらおうと思ったんだけど……お姉ちゃんが料理の途中だったから、くりくりになっちゃってて」
 そこにあったのは、作りかけのオムライスとミックスジュース。魚子が興味を惹かれないはずがなかった。火を使うオムライスはいくらなんでも危なすぎる。ミックスジュースなら、まあミキサーも危ないとは言え中に手を入れない限り問題はない。朝美は困りながらも、魚子にミックスジュースの方の作業を教えることにした。
「多分大丈夫だなって思って目を放したのがいけなかったんだよね……」
 このままでは料理が完成しない。12時になれば隆士と珠実が帰ってくるだろう。それまでにご飯を完成させなければならない……少々あせった朝美はオムライスを作ることにした。下ごしらえは終わっていてもう作るだけになっていたので、あとは火を通すだけだった。
 その瞬間、ミキサーからありえない音がした。鈍い音。もしかして手を入れてしまったのかと思って朝美が振り返ったとき、その中にあったのはバラバラになったジョニーの姿だった。
「私どうしたらいいか分からなくて、パニックになっちゃったんだ。本当なら、正直に言えばよかったのに」
 とりあえずどこかに隠さないと……そんな判断を下した朝美を非難することはできるだろうか。いかにしっかり者の朝美とは言え、そんな状況で正確な判断を求めるのは酷と言うものだ。この事態は、梢の人格には説明できない。梢の知らない場所で解決しなければならないということは分かった。いつ戻るとも知れない人格。判断は急を要したのだ。
「それで、お姉ちゃんが鍵を持っているの知ってたから、ポケットから取り出して慌てて4号室に投げ込んで鍵をかけたの」
 ジョニーをバラバラにしたのは魚子。
 密室を作り上げたのは朝美。
 実行犯がばらばらだったからこそ、今回の事態は混乱していたのだろう。
 また、4号室に隠さねばならなかった理由もこれで分かる。朝美の部屋には沙夜子がいる。沙夜子がいる部屋にぼろぼろのジョニーを隠しきれるとは思えなかった。かといって台所周辺には隠せない。真っ先に捜索されるから。だから、もっともありえない場所に隠すしかなかった。密室の4号室を作って。
「その後もう一回地震があって、それでお姉ちゃんの人格になったから、私お姉ちゃんにずっと料理してたよって嘘の事実を教えたの」
 魚子の人格だった時間の梢の記憶は、それで完全に台所にいたということになる。むろん、鍵など渡していないということも記憶に入る。渡した記憶がないのなら、誰にも渡してないと判断するだろう。それに同じ時間同じ場所にいた朝美が渡していないと言えば、梢は完全にそう思ってしまう。
 これが今回の事件の真相。
 密室は開かれ、犯人は暴かれた。……残すは。
「私、すごくいけないことしちゃったね」
 もうすぐ壊れてしまいそうな、気弱な微笑み。
 ぼろぼろになってしまったジョニーは、由起夫が何より大事にしていたもの。
 事件をごまかしたために、梢を悲しませ、他の皆を巻き込んだ。事件が大きくなりすぎて、言い出すこともできなかった……。
「確かに、ごまかしたのはよくなかったかもしれないけど」
 隆士は微笑んだ。朝美の傷をすこしでも和らげるために。
「けど、ちゃんと灰原さんに説明すれば分かってくれるよ。朝美ちゃんが全部悪いなんてことはないから」
 一瞬戸惑ったように隆士の顔を見上げ、朝美は少しだけ笑顔を取り戻した。
「うん、ありがとう、お兄ちゃん」
 朝美は立ち上がり、
「私、灰原さんに謝ってくるね」
 そう言って部屋を去っていった。
 隆士はそれを見送りながら、溜め息をつく。
「……さて、梢ちゃんにどうやってごまかせばいいんだろう」
 どうやっても巻き込まれの人生なんだなぁと思う隆士だった。



 あとがき

 というわけでなんとか完成しました。まあ推理ものなんて初めてというか挑むものではなかったなぁというのが感想ですかねぇ……。どこまで書けばいいんでしょうとか迷いながら書いていましたので。



 プレゼントクイズ・結果

 今回推理クイズをやってみたわけですが、合計で3通の応募がありました。とりあえず正解に一番近い人といってしまったので独断と偏見で選ばせていただきました。
 今回は朝美ちゃんが密室を作ったというところまで推理されたノージョさんにプレゼントを差し上げたいと思います。Norihideさん、唐紅つかささん、ご応募ありがとうございました。


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