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marionette fantasia


 青年は、目の前の風景に唖然としていた。
 目の前にあるのは、古風な屋敷だった。
「ここか……」
 一枚の紙切れと目の前の風景を見比べる。
 彼は小さな荷物だけを抱え、屋敷の前に立ち尽くした。
 ビルが立ち並ぶ都心において、この屋敷は時代に取り残された場所だろう。平屋建ての建物を取り囲むように、2メートルほどの塀が取り囲んでいる。
 どうせ東京の都心にある安アパートなど、狭くてぼろいと思っていたのだ。しかし、現実は眼前に広がっている通りだった。どれだけの思い込みもかき消されてゆく。彼は隅々まで見渡した。ゆっくりと歩みを進め、屋敷に入っていく。
『鳴滝荘』
 そう屋敷の前には看板が下げられていた。目的の場所に間違いはない。
 夢を追いかけて、思い切って上京したのはおとといのこと。住む場所をどうしようかと思う間もない状況であったが、なんとかつてを得ることができた。それがこの鳴滝荘だった。
 玄関にたどり着く。扉は閉まっている。少しだけ呼吸をし、呼び鈴を押す。
「すみません」
「なんだ?」
 背後から声が降りかかる。彼は驚いて体ごと振り返った。
 そこには、彼よりも背の高い、やせた男が立っていた。年は60くらいだろうか。しわを寄せた細い目でじっと彼のことを見つめる様は、まるで威嚇しているようでもあった。
「うちに何か用か?」
「あ、このアパートにお世話になりたく、思いまして」
 その厳しい形相に、言葉を詰まらせながら彼は答えた。
 男は眉間にしわを寄せた。ますます無骨になる表情に、彼はすこしだけ気まずい気分を味わった。それが、再び唖然に変わるのはすぐ直後のこと。
「おー、おー、遠藤さんの知人ってのはあんたのことか」
 今までの厳しい表情が偽りだったかのように、一気に表情を笑顔でほころばせた。親しげに肩をぽんぽんと叩かれる。
「ええ、紹介をいただきまして」
「そんな硬いこと言わなくても大丈夫だ、入れ入れ」
 そのまま肩を抱かれると、押し込まれるように彼は玄関をくぐった。
「そうだ、名前聞いてなかったな」
 靴を脱ぎながら、そんなことを聞かれた。彼はそんなことを忘れていたのかと我ながら呆れてしまった。名乗るなど、はじめに会った時点で済ませるべきことだ。
「あ、灰原由起夫と言います」
「ほう、同じ名前だな。俺の名前は蒼葉雪雄だ」
 やはり答えは気のいい笑顔で返ってきた。


 鳴滝荘に白鳥隆士が入居する15年前、灰原由起夫は一人上京してきた。
 そのとき、蒼葉梢はまだ1歳。まだ彼女の曾お祖父さんもお祖父さんも生きている。蒼葉梢のお祖父さんの名前が蒼葉雪雄であった。
 梢の両親は海外に出張しており、日本にはいない。祖母はすでに他界しており、曾お祖父さんは現在入院している。結果として、梢と雪雄は鳴滝荘で二人暮しをしているというのが現在の状況だった。


 空き部屋ばかりだから、好きな部屋を一つ選んでいい。
 そう言われた由起夫は本当に適当に6号室を選んだ。まさかここに10年以上も住むことになるとはそのときは思ってもいなかったが。
 単身の上京で、荷物一つ以外は何も持ってこなかった。後から送られてくる予定もない。夢を諦めきれなかった彼に、家族の反応は冷たいものだった。
 夢を追うなら追えばいい、ただし何の助けもしない。それが家族から言い渡されたことだった。これから当面の生活費を稼がなければならない。なにより、紙もペンもタダではない。
 早速何か仕事の当てがないかどうか、由起夫は雪雄に尋ねることにした。
 管理人室に向かう。
 すると、雪雄の声のほかに、小さい子供の声がした。泣いているように思える。
 部屋をノックすると返事がある。雪雄のものだった。由起夫はそれを確認すると、ゆっくりと扉を開けた。子供の泣き声はあいかわらずやまなかった。
「おう、部屋は決めたか?」
「ええ、一応。それより……」
 雪雄の質問に答えながら、由起夫は戸惑った視線を雪雄の手元に寄せた。そこには小さな赤ちゃんが、やはり細い腕に抱かれていた。懸命に体を揺さぶりながら、雪雄はその赤ちゃんをあやしているようだった。
「ああ、こいつか。孫だ」
 視線に気がついた雪雄がすこしだけ困った顔で答える。
「父親も母親も海の向こうだ。だから俺が代わりに世話してんだよ」
「そうですか。かわいいお孫さんで」
「けど俺は子育てなんてあいつに任せきりだったからな……いまになってそのツケが回ってきてんのさ」
 会話をしながらも懸命にあやす。けれど、腕の中の赤ちゃんは一向に泣き止む気配はない。
「赤ちゃんのことはよく分かりませんけど、ご飯とかオムツとか、その辺じゃないんですか?」
「飯はさっきやった。オムツは寝てる間に変えてやったんだがな」
「そうですか」
 原因は分からない。赤ちゃんの泣く原因など由起夫には想像の範囲外だった。子育ての経験などない。由起夫はそれでも、何かあやす道具はないかと部屋中に視線をめぐらせた。ふと、おもちゃの山に視線がぶつかる。
 由起夫は導かれるようにそのおもちゃの山に向かう。その中の一つに、犬のぬいぐるみがあった。手にとって見ると、それはぬいぐるみではなかった。手を入れられる。手を実際に入れてみると、耳を象った黒い布の部分がぷらぷらとゆれた。
「あーあーあー」
 声色をいくつか試してみる。
 何故そんな気になったかは今となっては分からない。ただ、赤ちゃんの気がまぎれるかもと思っただけだったのだろう。
 由起夫は赤ちゃんの前にしゃがむと、手にはめた犬のぬいぐるみを顔の前に差し出した。
「やあ、おいらは流星ジョニー」
 名前は適当だった。
「ぐしゅ、ぐず……」
 赤ちゃんは興味を引かれたのだろうか、少しだけ泣きやむ声を止めた。
 手の部分で目を隠し、
「いないいない──」
 そして、赤ちゃんの前に顔を出す。
「ばー!」
「あーうー」
 これで完全に泣き止んでくれた。
「おお、なんだお前、腹話術なんてできるのか?」
 黙って見ていた雪雄が感心の声をあげた。由起夫は首を少しだけひねった。
「いえ、そういうわけでもないですけど」
「うわーん!」
 由起夫が口を開いた瞬間、再び赤ちゃんが泣き始めてしまった。
「おい」
 雪雄の言わんとしている事を理解し、由起夫は慌ててジョニーを赤ちゃんの前に向ける。
 適当な曲を口ずさみながらジョニーを躍らせてみた。それでまた赤ちゃんの機嫌がよくなる。
「そういえば、この子の名前は?」
 ジョニーをしまい、尋ねる由起夫。しかしそれを聞いた赤ちゃんは再び泣き出そうとする。
「お嬢さん、名前はなんていうんだい?」
 再び由起夫はジョニー越しに会話をする。再び笑顔になる。
 由起夫は溜め息をついた。それの意味を、そして孫の意図も悟り、雪雄は人の悪い笑みを浮かべた。
「名前は梢だ。よろしくしてやってくれ、流星ジョニー君」
 由起夫はこの梢という子の前ではジョニーを演じなければならなくなった。作り声でしゃべらなければ機嫌を悪くしてしまうのだから、仕方ないといえば仕方ないが……。
「困ったもんだゼ」
 ジョニーは頭をかきながら、そうぼやいた。


 入居者は由起夫以外にはいなかった。
 もともとここはアパートをやっているわけではなかった。蒼葉家は古くから続く名家だ。しかし今は梢の両親が海外に仕事に出ていたりと、部屋が多く余っている状態だった。最近アパート業を始めたばかりなのだ。雪雄がアパートを始めた目論見はいくつかあった。
 一つは、住人に梢を任せること。完全に任せるというわけではない。しかし、小さい梢を連れて行けない場所もある。1日だけでも住人に預けることができれば、まだ生活もしやすいだろう。病に伏している雪雄の父の容態がいつ急変するとも限らない。
 一つは、当面の収入を得ること。もちろん、お金がないわけではない。梢の両親も生活費は入れてくる。資産もないわけではない。しかし、それとこれとは話が別だ。雪雄は資産にあぐらをかいて楽をしようとは思わなかった。
 そしてもう一つだけあった。しかしこれは望外のこと。叶わないとは分かっている。そして叶えたいとも思っていなかった。叶ってはいけないことなのだから。それは梢にとって、不幸でしかない。少なくとも雪雄はそう思い、それでもその事態に備えている自分がいることに胸を痛めていた。


 何年か経った。
 由起夫はバイトをしながら、小説家を目指していた。そして念願かなって、とある新人賞に入選する。少しずつ彼の生活は軌道に乗っていた。
 その間、梢の世話を何回か頼まれることがあった。
 あるいは雪雄が病院に行っている間に、電気代の支払いやらを代わりにすることもあった。手伝えば家賃を安くすると言われれば、断る理由はなかった。
 そしてある日の夜、電話がかかってくるのを風呂上りの由起夫は聞いた。
「どうしたんダ?」
 ジョニー越しにしゃべるのにも、もう慣れた。梢はもう4歳。いつ何処で会うかも分からない。そして幼い梢は由起夫のことを「ジョニーのおじさん」と覚えていた。これでは、迂闊にジョニーを外すわけにはいかなくなってしまった。自分の声を出すこともあまりなくなった。それでもいいかなと思っている自分に、少々意外な気を覚える。
 電話のところまで行くと、雪雄は深刻な表情で受け答えをしていた。そして電話を切る。由起夫に気付いた彼は、由起夫に近寄ると耳打ちをした。
「親父が危篤になったらしい。行ってくるから梢を頼む」
「わかりました……」
 小声で答える。梢はもう寝ているだろう。しかしいつ起きるか分からない。ふと起きて、同じ部屋で寝ているはずのおじいさんがいないと分かれば不安になるだろう。どうしたものか、由起夫が考えている間にも、雪雄はすでに出かける準備を始めていた。


 雪雄の父親──つまりは梢の曾祖父──が亡くなったのは、その日のことだった。
 そして、その葬式に親族が集まってくる。由起夫は葬式の間だけ、近くの知り合いの家に泊めてもらうことにした。さすがに葬式に顔を出すわけにはいかないと思った。雪雄はそんな気を使う必要はないと言ったが、やはり断った。
 その葬式に白鳥隆士が来ていたことも、そしてその隆士に梢が何か特別な想いを持ったことも、由起夫は知らない。
 その日を境に、なぜか由起夫は雑用を押し付けられることが多くなった。文筆中の気休めにはなる、由起夫は断ることもできたがそうはしなかった。そのうち、鳴滝荘のことで分からないこともないという感じになってきた。そこまで信頼を受けていいものだろうかと、少しだけ不安になった。日常に掠め取られ、そんな不安はいつも時間にまぎれていくのだけれど。
 それから4年ほどが経ち、黒崎親子が入居してきた。鳴滝荘への2組目の入居者だった。梢が8才、朝美が4才、由起夫の子守りは2人に増えた。子守りだけに追われているわけではないからいいのだけれど。
 また1年くらいが経ったとき、梢が友達を連れてきた。名前を茶ノ畑珠実と言っていた。そのときはまだ、彼女と一緒に暮らすことになるとは思ってはいなかった。そしてまだ彼女が入居する前のこと、事件は起きる。


 由起夫のことをジョニーのおじさんと呼ぶのが、梢から朝美になった。梢が灰原さんと自分を呼ぶことに、すこしだけ寂しさを感じる自分がいた。それが成長というものなら、喜ぶべきなのだろう。
 梢が料理を作るようになった。今までは雪雄か由起夫が作っていた。男二人の料理の腕は、正直褒められたものではなかった。沙夜子に期待した瞬間もあったが、それは入居1日目にして砕け散った。彼女の腕は男二人以下だった。
 夜になっていた。今日は夕方から雪雄が出かけている。帰ってくるのは夜9時ごろだと言っていた。町内会での集まりがあるらしい。
 梢の料理を食べ終わる。時間は7時半だった。
「風呂にでも入るカ」
 男は今は1人しかいない。好きな時間に、好きなだけ入っていられる。作品に少しつまっていた。長風呂をすれば少しはあたまもすっきりするかもしれない。そう思い風呂に入り、風呂から出たのが8時半だった。のぼせ気味になりながらも、夜風にあたる。これなら作品に集中できるだろう、由起夫は部屋にこもると執筆を再開した。
 時間を忘れて筆を進めていた。
 だから、部屋の扉をノックされたのが10時過ぎであることに、由起夫は少しだけ訝しく思った。子供2人はもう寝ているだろうと時間だから。
「ンー、誰だ?」
 扉を開ける。そこには梢が不安そうな顔して立っていた。
「どうかしたのカ?」
 尋ねる。すると梢は、由起夫の服をつかんだ。
「あの、おじいさんがまだ帰ってこないんです」
 確か9時に帰ってくるといっていた。場所までは聞いていないが。今が10時であることを考えると、たしかに遅いかもしれない。しかし、町内会の集まりと言っていた。そういうとき、呑んでくることもあった。今回もそれだろう。由起夫はそう思った。
「んー、もう少ししたら帰ってくるんじゃないカ?」
 そう言うが、梢の不安は消えなかった。
「あの、嫌な予感がするんです。よく分からないんですけど……」
「そうか……」
 そのとき、由起夫はただ梢は寂しいのだろうと思った。まだまだ子供だと、そう思う部分があったから。それが間違いだったとしても、由起夫を責められるものではないけれど。
「俺が待っててやるから、お前はもう寝てナ。明日も学校だろ」
「そうですけど……」
 どこか釈然としない表情をしながら、梢は引き下がっていった。由起夫はその様子を見送ると、部屋の扉を閉めた。
 先ほどまでとはうって変わって由起夫は執筆に集中できなくなっていた。梢が言っていたことを気にしているのだろうか。
「まったくヨ……」
 仕方なく玄関に向かう。どうせ酔っぱらって帰ってくるのだ、介抱しなければならないだろう。嘆息しながら靴を履き替えていると、玄関の向こうから衝撃的な音が響き渡った。そして続く悲鳴と喧騒。
「なんだ……」
 由起夫は慌てて玄関の扉を開けた。そして悲劇を目の当たりにする。
 誰かが倒れていた。そしてそこに梢もいた。
「どうしたんだ!」
 慌てて駆け寄る。そして状況を完全に理解した。自分の判断がいかに愚かであったかも。
 道路には車が止まっていた。へこんだバンパー。ヒビの入ったフロントガラス。その先には、誰かが転がっていた。誰なのか理解したくはなかったが、歩道に呆然と立ち尽くす梢がそれを許さなかった。
 由起夫は倒れこんだ人物に駆け寄った。すでに車のドライバーらしき人物が近くにいたが、ひどく青ざめていた。状況は、最悪だった。
「雪雄さん……」
 苦々しく、呟きをもらす。
 出血が激しいのは素人目にも分かった。腕や足が折れている様子はなかったが、それでもどこかしら骨折しているのだろう。それほど、ひどかった。
「救急車は?」
「呼びました……」
 それでもまだ、青ざめながらもすべき行動はとっていたようだ。ドライバーなのだろう、30代くらいの会社員のようだった。
「お…じい…さ……ん」
 ふらふらと、梢が歩いてくる。その顔はやはり青ざめていた。状況を理解できていないのかもしれないと思っていたが、それでも幼い頭は少しずつ噛み砕いていったのだろう。この、悲劇を。
 今にして思う。どうして梢をちゃんと寝かせなかったのだろう。そして雪雄を探しにいかなかったのだろう。けれど、それもいまさらだ。
「梢か」
 雪雄は、それでも孫に対して気丈に振舞った。どれほどの激痛に見舞われているか想像もつかない。
「遅くなったな」
「おじいさん……血がたくさん出てるよ……」
 震える声と体。すぐに、足が激しく震えだし、梢は膝をついてしまった。アスファルトに吸いきられなかった血は、今度は梢の膝に居場所を求めていく。
「ちょっとくらい抜けた方が……ちょうどいいんだよ。血の気が多いからな」
 由起夫にはどうしていいのか、分からなかった。助かるのだろうか、助からないのだろうか、それもわからない。応急処置など、由起夫にはできない。とにかく、救急車が早く来ることくらいしか今は祈ることができなかった。
 それにもし、これが今生の別れになるのならそれを邪魔することはできないのではないか。心情だけなら、梢をとにかくこの場所から離してしまいたいのだが。
「よう、ジョニーよ」
 雪雄の言葉で、由起夫の意識は思考から現実に引き戻された。
 血の気の引いた笑顔。見るに耐えなかった。それでも、見届けなければならない。
「いや、灰原由起夫さんよ……梢と、鳴滝荘を、しばらく頼むな」
「ええ……」
 それ以上、言葉を必要としない。薄々分かっていたことだった。雪雄が由起夫に鳴滝荘の雑用などをさせていたのも、すべてはこの瞬間のためなのだろうと。梢の保護者はいない。いるが、海外だ。滅多に日本には帰ってこない。遠くの親戚より近くの他人とはよく言ったものだ。
「ほら梢、泣くんじゃない」
 力なく震える手を、何とか泣きじゃくる梢の頭に乗せた。
「悪いなぁ、真っ赤な手で」
 乗せてから、自分の手が自らの血で真っ赤になっていることに気がついたようだった。
 遠くから、サイレンの音が響く。夜の澄んだ空気を揺さぶりながらも、現実味のない音だった。一向に近づいてこない気すらした。
 やがて救急車に雪雄が飲み込まれていくまで、由起夫は夜の闇よりも冷たい暗闇に立ちつくしていた。
 ただ約束だけが、耳に残っていた。


 雪雄は酔っぱらっていたらしい。ふらふらと鳴滝荘の前の道路を横断しようとして、車にひかれてしまったらしい。梢はそれ以来ふさぎこんでしまった。友達の珠実もときどき様子を見にきたが、それでも梢は部屋から出なかった。
 1週間ほど経ち、梢が部屋から出てきたときから、鳴滝荘の雰囲気も一変した。
 赤坂早紀。彼女はそう名乗ったのだ。
 はじめは気が狂ってしまったのかと思った。それが多重人格という症状だと知ったのは博識な珠実のおかげだった。彼女は中学入学と共に鳴滝荘に入居した。それが彼女なりの友情なのだろう。
 それ以降、いろいろな人格が現われた。金沢魚子にだけは手を焼いているが。
 桃乃恵が入居し、そして白鳥隆士が入居する。それまでにも何人か入居しようとしたが、梢の多重人格を知ると出ていってしまった。


 ──雪雄さん。
 今日も騒がしい鳴滝荘の喧騒を耳にし、由起夫は空を眺める。
 ──梢と鳴滝荘は、ちゃんと守られてますよ。
 だから、叶わぬことだと知っていても、こう思ってしまうのだ。
 ──いいかげん、頼まれる期間も長いと思うんですが……。
「そろそろ、帰ってこいヨ」
 梢も、鳴滝荘も、元気なのだから。  (終わり)



 あとがき

 というわけで、多分1年くらい経ってるんじゃなかろうかと思いますが、リクエストSS「ジョニーではなく灰原由起夫そのもののSS」でした。というかバラさん自体の性格なんてわかるわけもありませんし、まあ猫の話でその一端は垣間見ることができましたが、そんなわけで、どうしようか大変困りました。
 どうせだから、過去にかっこいい部分のあるバラさんを書いてやろうとしました。つまり、どうしてジョニーを持つに至ったとか、あるいは鳴滝荘は梢ちゃんが小さい頃はどうやって運営してたんだよとか、そういった過去の問題に僕なりに予想してみて、かつバラさんメインというすごい離れ業をやってみたつもりです。まあきっと空中分解してますが。
 梢ちゃんの多重人格の原因は、現段階ではおじいさんの死を目の前にしたという感じだろうと思っているのですが。事故の時期とかもよくわかりませんが……。両親がいないのは海外にいるからということにしてみました。でもさすがにおじいさんが亡くなったら、どこか別の親戚に預けられるとか、両親のところにいくとか、両親が帰ってくるとかしてもいいとは思うんですが……。
 まあいろいろ予想してみましたが、結局のところバラさんはこんな重要な役割を背負っているなんてことはないでしょう。ちょっぴり悲しいところではありますが。
 タイトル「marionette fantasia」は、garnet crowの3rdアルバム収録の曲です。買ってきたばかりなのですが、パッと聞いた感じではこの曲が一番いいかなぁと思っております。僕はこういう感じで誰かの歌のタイトルをそのままタイトルにすることが多いです。本当は「無色」というタイトルだったんですけど。まあそんな感じで。
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